Mさんは、終戦間際に生まれた方で、当時の時代の混乱や実父が戦死されたことなどから戸籍上は実親ではない親戚の子どもとなっていた。しかし、実際には生みのお母さんと生活をされ、お母さんが亡くなられた後に、定期預金の通帳が見つかった。
戸籍上は全く赤の他人である母の通帳、戸籍上の両親も既に他界をして久しい。いったい、どうしたものか。
このような場合、①戸籍上の親とは親子関係にないという確認、その上で②実母との親子関係を認めてもらわないことには、せっかくお母さんが残して下さった預金をどうすることもできない。そこで、家庭裁判所に①、②の確認を求める裁判を起こした。
このような場合、関係者が存命であればDNA鑑定をすれば容易に結論が出る。しかし、Mさんの場合、肝心の戸籍上の両親、実父母、みな亡くなっている(ちなみに、このような場合の裁判の相手である被告は検察官となり、今回の場合にはある地方検察庁の検事正が形式的には被告となった。)。さて、裁判を起こしたもののどうしたものか。
幸い戸籍上の姉は存命でMさんとも行き来があったので、姉とのDNA鑑定により姉とは生物学的には兄弟ではないことが証明された。その上で、Mさんの生活歴、実母との写真等を証拠として出してところ、こちらが求めた内容の判決が出された。 万万が一、戸籍上のお姉さんと兄弟という鑑定が出たらどうしたものか?また、こちらの出した証拠だけでは裁判官が納得してくれなければどうしたらよいか、心配の種はいろいろあったものの、良い結果に到達してほっとした。Mさんには、いわば天国から届いたようなお母さんの預金で念願のお母さんの永代供養が出来ると喜んでいただき、私も、嬉しかった。何より、いろいろご苦労のあったであろう幼年期をみじんも感じさせないMさんのお人柄の良さに、時には疲れて気持ちが沈んでしまうこともあるだけに、打ち合わせの時など私自身が心洗われることがしばしばで、事件を担当させていただけたことを感謝している。