弁護士活動日誌

専門学校生の自死事件・高等裁判所での和解の成立

 いずみ44号(2018.8.1)でご報告をしました理学療法士養成の専門学校に通っていた専門学校生が臨床実習中の平成25年11月30日に自死をした件の損害賠償請求事件について、平成30年6月28日に原告の請求を全面的に認める判決が出された後、被告らが控訴をしたため、大阪高等裁判所(第14民事部)での審理が続いていましたが、今年4月8日に和解が成立しました。

 和解の内容は、亡くなられた大野輝民さんが通っていた近畿リハビリテーション学院を運営する医療法人髙寿会及び実習先であった辻クリニックを経営する医療法人一裕会ら両被告らが各1500万円を、輝民さんの妻である原告に対し支払うことの他、「控訴人(被告のこと)らは被控訴人(原告のこと)に対し、被控訴人の亡夫大野輝民の死について強い遺憾の意を表明する。控訴人医療法人髙寿会は今後本件と同様の事態が生じることがないよう、理学療法士養成教育等に関連する法令やガイドライン及び理学療法士協会が策定する指針等を遵守して、その再発防止措置を取ることを約束する。」という条項も盛り込まれ、今後の理学療法士養成に関して、専門学校が再発防止を約束する旨も明記されました。

 一審判決後には、厚生労働省も本件を重く受け止め、指定規則とガイドラインの大幅改正に着手し、特に臨床実習に関して教育の質を担保する内容に変更しました。また、理学療法士協会及び作業療法士協会においても「実習の見直し」が始まるなど、この事件は、単なる亡くなった輝民さんの救済に留まらず、理学療法士等の養成に関する制度全体の改善を促す契機となりました。

 和解に際して、原告の大野さんは「理学療法士学生の実習問題を問う」というサイトの中で、「従来、この業界では臨床実習に耐えられないのは『学生が弱いから』とされ、学校も実習現場も学生の自己責任としてきました。しかし、本件裁判を通じて、『学生はハラスメントに耐えるのが当然』とする前時代的体質からの脱皮が避けられなくなりました。私たちは、これからも理学療法士・作業療法士をめざす学生たちが、安全安心して学べる環境へ運動を続けていく決意です。 裁判中はたくさんの方々ご支援、御協力をいただき心からお礼申し上げます。ありがとうございました。」と述べ、裁判を支援してくださった方々へのお礼とともに、今後も理学療法士らを目指す学生の支援活動を続けること表明されています。   大野さんの裁判はまさに社会に一石を投じる事案であり、このような事案に関われたことは、私にとっても、今後の弁護士活動における大きな糧となりました。本原稿にて、本裁判を応援下さった方々に、御礼を申し上げます、ありがとうございました。

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